経済は「競争」では繁栄しない
経済は「競争」では繁栄しない
経済は「競争」では繁栄しない――信頼ホルモン「オキシトシン」が解き明かす愛と共感の神経経済学
- 作者: ポール・J・ザック,柴田裕之
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2013/06/28
- メディア: 単行本
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本書は、「神経経済学」という人間の出すホルモンによって経済を考える学問の生みの親であるポール・J・ザックさんが書かれたものです。
小難しい話に思われるかもしれません。だって、生物学と経済学と哲学などが入り混じった学問なので。
しかし、同書はユーモアたっぷりに書かれているのでたまに笑っちゃいます。(自虐的表現もなかなか面白い)
オキシトシンとテストステロン
オキシトシンは、他者に共感し信頼を育むホルモンです。テストステロンは、攻撃的で処罰しようとするホルモンです。
人間は、この2つのホルモンバランスを保つことが大事です。
今までの経済学では、人間はテストステロン的な合理利己主義でできていると定義してきました。つまり、誰もが自分の利益を念頭に置き、一体どこにその利益があるかという打算に基づいて意思決定をすることを前提とした経済学だったのです。
面白いことに、経済学や経営学に触れたことはある人なら一度は聞いたことがあるであろうアダム・スミスは、道徳感情論の中でこのように言っていました。
「優しく寛大な行動は、他者への愛着の感覚から生まれ、困っている人を目にすると、「相互同感」という絆(共感)が生まれる」と。
人間は道徳を生まれながらにして持っており、他者への共感こそ世の中を豊かにできると提唱したのがアダム・スミスでしたが、時代背景的に金儲け資本主義だったこともあり誤解されていたそうです。
アダムスミスは、利己主義の追求は現に全ての人に有益であると主張しました。本書では、皇帝ペンギンの例が出ていました。皇帝ペンギンのオスは我が子の卵を温めるために集団で身を寄せ合います。しかし、外縁部にいるペンギンと中心部にいるペンギンでは温度が違います。(もちろん中心の方が居心地がいい)そのため、お互いに外縁部と中心部の場所を交代しながら過ごします。
つまり、各自の利益と全体の利益を一体化し、善循環を生み出しているということです。これは人間でも同じで、一人では生きていけません。他者を幸福にすることが自らの生存に欠かせないのです。だから、人間は道徳的な動物であって、決して合理利己主義ではないのです。
テストステロンは、暴走するとダメですが、ある程度持っていないと人を信頼し過ぎたりリスクにチャレンジすることができないです。
多くの人にとって身近な例で言えば、結婚は大きなリスクを伴う決断です。もし、テストステロンがなければ、結婚できないでしょう。そのリスクに挑戦しようとできないからです。
なので、決してテストステロンが悪いというわけではなく、何事もバランスが大事ということです。
オキシトシン分泌を増やすには
では、どうやってオキシトシンの分泌を増やせばいいのでしょうか。
オキシトシンは、1日8回ハグをすれば今よりもっと幸せを感じるそうです。オキシトシンは、ハグした二人共に分泌されて行くのでハグが優しさの好循環を生み出します。
また、複数人でダンスをすることもオキシトシンを分泌させるそうです。
現代的ですが、好きな人とSNSでチャットをするだけでもオキシトシンは分泌されます。もちろん、優しい心配りや親切はした人にもされた人にもオキシトシンを分泌し、他人に思いやりのある行動を促します。
昔からの「自分がやってほしいことを他人にしなさい」という教えは正しいということです。
共感と信頼に基づく経済
僕は、より人間らしい「他者への共感」「他者との信頼関係」によって育まれる経済を目指したいと思っています。
なぜなら、その方が「幸せ」に生きられると思うからです。
何を持って幸せと言うのかは人それぞれですが、僕にとっての幸せは、"共感"と"信頼"が満たされた状態だと思います。
共通の話題で盛り上がれる人とは、めちゃくちゃ盛り上がって話合えますし、そう言う人とは時間など関係なく信頼関係が育まれます。
信頼関係は、人と人が強い絆で結ばれ互いを思いやれる関係性だと思います。
そして、インタネットによってこの共感と信頼関係は拡大しています。
この共感と信頼は、人それぞれ太さが異なり、一概には判断できません。
そこで異論を唱えたいのが、「評価経済」へ向かおうとする流れです。
僕は、評価経済を解にするのはちょっと違うのではないかと考えています。共感経済の中にも評判資本というものがありますが、一つのパラメーターに過ぎません。(共感経済も究極解ではないですが。)
評判経済では、他者からのレビューが全てです。AirbnbやUber、食べログどれをとってもレビューですが、レビューでその人の全ては分かるわけがありません。
以前、「Airbnbで宿泊するときに着眼点はどこか?」というアンケートを取ったら、
①レビュー
②家や部屋の写真
③プロフィール
という結果になりました。
やはり、レビューを気にする時代ということを感じました。
もし、レビューを気にし過ぎれば、他人からの目が気になり自分を失いかねません。突き抜ける人は、世間では叩かれ、レビューで悪いことを書かれる恐れがあるので、下手なことはしなくなります。そのため、平均的で当たり障りのない人の集合体が形成されなんの面白みもない世の中になるのではないかと懸念しています。
共感経済は、社会関係資本(知識資本、関係資本、信頼資本、評判資本、文化資本、自然資本、信用資本など)で形成されています。
共感経済では、個人それぞれの価値観や世界観で関係性が生まれ、信頼を高め合い、互いの評判で共通価値観の人たちがつながり合うことでコミュニティが生まれ、それが文化となって生きます。
その段階で、このコミュニティがアイデンティティ化し、自分の一部となります。
そのコミュニティーが無くなることは、家族の死を意味するぐらい悲しくなるのです。
このような共感経済では、より多様な指標で互いを認め合い、価値を創出し交換し合う経済が生まれるのではないかと思います。
何より、愛と共感と信頼によって人間が人間らしく人生を歩んでいけるのではないか。
全ては無である
上記で、共感経済も究極解ではないと書きましたが、その理由は、我々人間が認知できるパラメーターが少な過ぎるからです。
この地球、宇宙含め放出されているエネルギーは膨大であり、全て何かで埋め尽くされています。しかし我々はそれを感じられない。
その少ないパラメーターでしか価値判断できないので、共感経済も究極解ではなく、単なる仮説に過ぎないわけです。
この世に究極解は存在しません。
ここ数百年の資本主義の流れは、西洋的な価値観が深く影響を及ぼされてきました。具体的にいうと、存在するものに価値を認め、解は一つしか存在しないということです。
東洋思想とは真逆の発想です。東洋は、全ては"空"から生まれており、"無"が価値なのです。そして、解は複数存在し、その全てが正しいのです。
近代科学から量子力学へと動いており、量子という"空"の概念が西洋にも浸透してきました。
そして、多様な価値観や宗教観、哲学が存在していますが、20世紀まではそれを認めず殺し合いによって解決しようとしましたができませんでした。その名残が21世紀初期の今、テロリズムという怪物を生み出しました。
多様な価値観を認め合い、尊敬し合うためには、西洋と東洋の思想が溶け合い絡み合うことが重要なのではないかと思っています。
話が逸れましたが、「何が正しく、何が間違いなのか」というアプローチではなく、全て正しいわけで、これからの社会は、価値観に基づき互いに共感し合うコミュニティが複数でき、そのコミュニティに複数所属することができる時代ということです。
しかし、これは単なる仮説解に過ぎません。全ては暇つぶしのようなものだと思います。
経済は「競争」では繁栄しない――信頼ホルモン「オキシトシン」が解き明かす愛と共感の神経経済学
- 作者: ポール・J・ザック,柴田裕之
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2013/06/28
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